企 画

日本語現場作文大会の提案

  諸言語と比較して、日本語の文法や音韻はそれほど独特なわけではありません。しかし漢字、平仮名、片仮名と3種類を持ち、ときにローマ字も使用する、多種類の文字で構成される言語は、この地球上で、日本語だけです。すると日本語のこの特性は、話すことではなく、書くことによってこそ十分に発揮されると言えます。

 

長年、小説や論文など多くの日本語を書いてきた私は、この「書くこと」を日本語教育に最大限に生かしたいと熱望しています。従来の活動と言えば、学生が作文を書いて提出し、教師が間違いを直す、とか、作文コンクールに学生が応募し、審査員が良いものを選ぶ、というものでしたが、2000年代に入ってからすでに10年が経ち、作文教育も抜本的な改革を必要としています。 

 

そこで私が提案するのが、「日本語現場作文大会」の実施です。具体的に何をするかというと、日本語の文による試合、です。ボクシングやサッカーの試合のように、参加者が敵と味方に別れ、その現場で日本語の文を書き、審査員がその場で表現力などを審査するわけです。この臨場性こそが最大の特徴です。

1.はじめに

 

 日本語能力には「話す」「聞く」「書く」「読む」の4つの側面がある。このうち「話す」と「書く」がアウトプットであり、本人の表現能力が問われてくる。そして現在、中国日本語教育界では、朗読大会、演劇大会、演説大会など、多くの大会が実施されているが、ほとんどは日本語の「話す力」に力点を置いたものである。もっと「書く力」にも重点を置くべきではないだろうか。

 学生によって得意とする表現方法は異なる。話すことは苦手だが書くのは得意だ、という学生も当然いる。「書く」ことに主眼を置いた日本語大会は、彼らに実力を発揮させる機会を提供するものである。

 また、現在の日本語大会は、朗読にせよ、演劇にせよ、学生が順番に発表して、審査員が評価して、いちばん最後に優秀者を決めるという形式をとる。しかし、ボクシングやテニスのように、その場で対戦相手同士が日本語という土壌で闘うなら、大会は一層白熱し、面白くなる。

 以上の二点「書くことの重視」と「大会の臨場性」を実現するべく、日本語現場作文大会を企画した。

 

2.企画

 

会場設営

 ステージに二つのパソコンを置く。距離は離す。ステージの後ろには、二つのスクリーンがありそれぞれのパソコンの画面が表示される。例えばパソコンAで「こんにちは」と打つと、スクリーンAにも同時に「こんにちは」と表示される。

 

 

試合規則:

 試合の直前に、単語またはテーマが言い渡される。単語は、作文中に一度使えばそれでよい。テーマは、作文の全体的内容がそのテーマに従ってなければいけない。また、各試合ごとに制限時間が設定される。それを過ぎたら減点、または失格となる。

 

試合の流れ:

 二人の選手がそれぞれパソコンの前に座る。司会者から、単語またはテーマ、さらに制限時間が言い渡される。開始のサインと同時に、選手がパソコンで日本語を打つ。終了後、審査員が日本語の正確さ、表現力などを審査して、得点や勝者を決める。トーナメント形式にして、最終的に優勝者を決める。

 

 

試合内容:

(a)

「愛」「忘れ物」「リンゴ、青空」などの言葉、テーマを与える。参加者はそれをもとに詩を書く。例えばテーマ「忘れ物」なら、「毎日の仕事で/命が搾り取られて/学生時代の高い理想も/どこかに置き忘れた/終電に揺られながら/はかなく短い夢を見る」などの詩を書く。

(b)比喩

「カレンダー」「時計」などの単語と、「直喩」「隠喩」「誇張法」などの比喩の形式を指定する。例えば「時計/隠喩」なら、「私の母は目覚まし時計だ。いつも決まった時間に私を起こしてくれる」。「カレンダー/直喩」なら、「居間のカレンダーをめくって、ついに12月がきた。まるで死を宣告された私みたいに、続きがない」

(c)翻訳

司会者が中国語で何らかの一続きの文を話す。選手はそれを聞いて、日本語に翻訳し、打つ。

(d)主題作文

 大きなテーマを一つ与えて、短く簡潔な作文を書かせる。テーマは「国際結婚」「中国語の方言」など、簡単に自分の意見が述べられるものが望ましい。

(e)文型作文

 単語と文型をワンセットで与える。例えば「単語:お金」「文型:にもかかわらず」ならば、「親戚からお金をもらったにもかかわらずお礼を言わない子供がいる」「優勝賞金で、たくさんのお金を手に入れたにもかかわらず、彼はうれしい素振りを見せない」など。

 

 以上は、敵同士で争う形式であるが、味方同士で協力し合う形式も考えられる。

 

(f)ロールプレイ

 ロールプレイとは、依頼、拒絶、謝罪、などの機能を軸に、役割を決めて、日本語会話を進めるものである。

 大会の係員が、パソコン上に、状況を提示する。選手はその設定をもとに、パソコン上で会話を進めていく。以下に例を示す。

◆状況―Aさん―「ABからMP4を借りた。しかし誤って壊してしまった。Aはそのことを伝える。そしてBに許してもらえるまで謝る」

◆状況―Bさん―「BMP4を大切にしている。そこにはたくさんの音楽や映画が入っている。しかしAに壊されたと聞いて、驚き、怒る。なかなか許せなかったが、最終的に許す」

A「あのう、Bさん、ちょっといいですか」

B「はい、なんですか」

A「ちょっと、言いにくいんですが」

B「はい」

A「実は、MP4を壊してしまって……。すみません!」

B「え? 冗談でしょう」

A「本当です」

B「信じられない。どうして壊したのよ。あれ高かったのよ」

……以下、省略。

 制限時間内に、状況をもとにして、目的の会話ができるかどうかを見て、評価する。参加者AB二人で1チームとして、もっとも点数の高いチームが優勝となる。

(g)リレー小説

 大会の係員が、パソコン上に、主人公の名前、年齢、職業を表示する。選手はその設定を使い、あとは自由に想像力を働かせて小説を書く。それを味方同士で協力して書いていく。リレー小説であるから、Aさんが途中まで書いたものを、Bさんが続けて書き、さらにそれをAが書き、というふうに交互に進めていく。以下に例を示す。

 

◆設定「名前:佐藤一朗。年齢:19歳、職業:学生」

 

A:佐藤は日本語を専攻する大学生だ。だが毎日遊んでばかりいる。今日も授業をさぼり、彼女の  美香とデートする」※ここまで。

B:「ねえ、大事な話があるの」喫茶店の中で美香が言った。

 「なんだい」佐藤が聞いた。

 「私たち、別れましょう」

  佐藤は、何の冗談だと思って、笑った。※ここまで

A:「なんか、あなたと一緒にいても、自分のためにならないって思って」

  美香の顔は極めて真剣だった。佐藤はそれで、彼女の決意を悟った。※ここまで

……以下、省略。

 

 制限時間内に小説を完結させなければいけない。審査員はその小説の内容、正確さなどをもとに点数をつける。参加者AB二人で1チームとして、もっとも点数の高いチームが優勝となる。

 

3.意義と発展性

 

 日本語現場作文大会には様々な意義と発展性が秘められている。

 

(a)意義

・面白いことが、まずは最大の特徴である。会場に集まる客は、朗読や演説を聴いて、「楽しい」とか「面白い」とか感じるわけではない。ただ日本語の発表を聞いている、それだけの感想である。しかし日语现场写作比は、いわば言葉の格闘技なので、客が面白いと感じる。日本語があまりわからない学生でも、スクリーンに文字があるのでわかる。非常に幅広い集客を見込める。それは中国の方々の日本語への興味を拡大し、深めていくということである。

 

・テーマや単語が、ステージに上がって初めて伝えられるため、学生は事前に準備できない。その場で考えなければいけない。だからこそ学生の日本語の書く力が客観的に評価されるのである。一方の朗読や演説は事前にいくらでも練習できる。すなわちあれは発音の正しさや記憶力を測るものでしかない。同様に既存の日本語作文大会も、一度作文を受け付けて、審査員がそれを読み、数ヵ月後に優秀者を決めるという形式のため、日本語教師がどのくらい手伝ったのか、などはわからない。よって現場で日本語力を試す日语现场写作比は、従来の日本語大会の弱点を大幅に補うものである。

 

・本大会は「書く」ことに主眼を置くが、ロールプレーには会話力も要求される。

書く力だけを測る大会ではない。

日本語現場作文大会の盛り上がり如何によっては、日本語への学習熱も高まると予測される。

学習者の増加は日本語教師の仕事の安定化にも繋がる。また読解・作文の日本語教材の売り上げ増加も期待できる。それは筆者および出版社の利益にも直接関わってくる。

 

(b)発展性

・日本語現場作文大会の参加者は学生に限定しない。中国人日本語教師、日本人日本語教師も参加可能とする。こうすると、教師同士が切磋琢磨し日本語力を磨いていくという好ましい風潮を作ることができる。もっとも、大会は学生と教師を混在させず分けたほうがよい。

 

・この形式を使って中国語現場作文大会、英語現場作文大会を開催することも可能である。

 

・作文大会の実施中に、場を盛り上げるような音楽を流したり、司会者を設定して、ボクシングなどの実況中継のように作文の様子を観客に説明するのも趣がある。

 

 

 

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